若手が「社内でやりたい仕事がない」と思う理由。
人事が見落とすキャリア形成の盲点

「若手社員と話すと、人間関係に悩んでいる様子もないし、業務に対して目立った不満も出てこない。ただ『やりたい仕事も特にないし、今のままでいいです』と言われている。向上心がないわけじゃないんだろうけど、以前と比べてモチベーションは下がっているように見える。現場としてここからどう火をつければいいのか……」
現場の管理職から、このような課題を耳にしたことはありませんか?
目に見える「不満」がないからこそ、現場管理職がどんな一手を講じるべきか、アプローチに悩むケースは少なくありません。
なぜ、職場環境に不満がないのに、若手社員の熱量は失われてしまうのでしょうか。その背景を深く紐解いていくと、「社内キャリアの選択肢が本人に見えていない」という、組織の構造的な要因が浮かび上がってきます。
本コラムでは、多くの企業が見落としがちな、社員の『社内キャリアの解像度』という問題にスポットを当て、人事として今見直すべき点についてお話いたします。
INDEX
職場環境に不満はない
それなのにモチベーションが低下する若手社員
若手社員のモチベーション低下の理由が、「人間関係の悪化」や「労働環境への不満」といった分かりやすいものであれば、人事としても手を打ちやすいものです。例えば、部署異動を行う、制度を見直す、といった具体的なアプローチ法が思い浮かびます。しかし、目立った不満が見当たらないにもかかわらず熱量を失い、ある日突然「やりたいことが見つかりました」と退職届を出されてしまうと、人事としては打つ術がありません。
ここで一度、今の組織体制について考えてみてください。多くの企業では、こうした従業員の個別ケアを現場の管理職による1on1や定期面談に委ねています。なぜなら、人事がすべての従業員のメンタルやキャリアの悩みに対して、個別に深く介入していくにはリソースの観点からも限界があるからです。
しかし、現場管理職とのコミュニケーションだけに頼る方法には、もしかしたら今、限界が訪れているのかもしれません。
「自部署の枠」でしか語られない、キャリアの選択肢
現場の管理職は「この部署でこのまま働いてて大丈夫か」「これ以上の新しい成長はないかもしれない」と漠然とした不安を抱える部下を前にすると、つい「自部署の枠内」で選択肢を提示してしまいがちです。
たとえば、上司が良かれと思って「次の期からリーダーを目指してみないか」「大きなプロジェクトを任せたい」と提案したとします。上司側からすれば、期待の裏返しであり、最大限のモチベーションアップを狙った一手です。
しかし若手社員からすると、それはすでに頭の中で予測できているキャリアの延長線上に過ぎません。これ以上の伸びしろを感じられない環境では、どれだけ期待をかけられてもステップアップしていく姿を描くことができず、かえって悩みを深めてしまう可能性があります。
また、どれだけ優秀な管理職であっても、他部署のリアルな業務内容や、そこで磨けるスキルを同等レベルで語ることは不可能です。
結果として、悩む部下に対して「今、目の前の仕事を頑張ることが将来に繋がる」といった、根性論に近いアドバイスしかできなくなってしまいます。
このように、若手社員のケアを現場に委ねた結果、具体的な解決策を見出せずに手詰まりとなってしまう組織構造そのものが、モチベーション低下に繋がってしまうのです。
自社の情報不足が引き起こす、若手社員との「認識のズレ」
また、若手社員のモチベーションが低下している様子を見ると「最近の若手は、打たれ弱いのではないか」「本人のやる気の問題なのではないか」といった個人のハングリー精神の欠如として片付けがちです。ですが、この問題の背景には、人事組織として見落としがちな『ある盲点』が深く関係しています。
人は、自分自身が成長している、ステップアップしているという「実感」があるときにこそ、最も高いモチベーションを維持できます。
熱量を失う若手社員は、今の業務を「やり切った」と言える手前の段階で、自分のスキルアップが鈍化していることに危機感を覚え、仕事に対して「次に成長できる要素」を、必死に探している状態にあります。
しかし、自部署での成長の限界を感じ、社内の別の部署へと視野を広げた時、他部署ではどんな挑戦の機会があるのか、異動した先にどんな自分が待っているのかという「社内キャリアの解像度」が、あまりにも低すぎるのです。他部署の仕事のリアルが見えないからこそ、自社で次に目指すべきステップも、数年後の自分の姿も、具体的に描きにくくなります。
「隣の部署」より「他社」がまぶしく見える危険状態
このような状況に陥ると、彼らは「自社には自分の求めるキャリアがない」と思い込み、社外へと目を向けるようになります。「転職サイト」や「SNS」を開けば、他社の情報やそこで得られる可能性、働く同世代の姿など、自分のなりたい将来をいくらでも想像できる情報が溢れています。
本来なら、他部署にも成長のチャンスはあるはずです。しかし社内の情報が見えにくい場合、若手社員は自社で働く将来像を具体的に想像できていません。その結果、「次の成長ステップ」をより鮮明に、より魅力的にイメージできる場所が「自社の他部署」ではなく「転職サイトに掲載されている他社」になってしまっているのです。
こうした状態のままモチベーションが低下したタイミングを迎えると、「社内で新しいことに挑戦し、もう一度成長する」という本来あるはずの選択肢が、若手社員の頭の中から完全に抜け落ちてしまいます。
彼らが口にする「この会社には、自分のやりたい仕事がない」という言葉の裏には、「社内キャリアの情報が乏しいために、可能性を見いだせなかった」という、組織の仕組みが生んだすれ違いが隠されています。
人事の「発信した」と、若手に「届いた」の間にある溝
ただ、このような話をすると、多くの人事担当者の方はこのような疑問が出てくるかと思います。
「うちは他部署の情報も、社内公募制度の規約も、すべてイントラネットに開示している。社内報も定期的に発行している。それを見に来ない、調べに来ないのは、やはり社員側のやる気の問題ではないか。」
ここに、多くの組織が直面している構造的な盲点があります。「見に来ない社員が悪い」という話ではなく、日々の業務情報があふれる現代において、人事が「情報を配信しただけ」になっており、「発信した情報が社員のキャリア理解につながる形で届ききっていない」という課題が生じている可能性があります。
ここで、株式会社スタメンが発表している「情報の透明性」に関する調査データを見てみましょう。
「情報を抜け漏れなく受け取れているか?」という質問に対し、「全くそう思わない」「どちらかといえばそう思わない」と回答した従業員が全体の63.6%に上り、6割以上が情報共有不足を感じていることがわかりました。
あなたの職場では、情報を抜け漏れなく受け取れていると思いますか?
さらに、この問いを役職別で見てみると、役職が低いほど「必要な情報が届いていない」と感じやすいという、現場のリアルな傾向が結果として出ています。
あなたの職場では、情報を抜け漏れなく受け取れていると思いますか?
また、「十分に共有されていないと感じる情報」という問いに対しては、約3分の2の社員が、他部署や他拠点の従業員に関する情報が共有不足だと感じているようです。
次のうち、あなたの職場では十分に共有されていないと思う情報を全て教えてください
改めてこのデータを整理すると、以下のようになります。
・63.6%(6割以上)の従業員が「情報共有不足」を感じていること
・役職が低い社員ほど「必要な情報が受け取れていない」と感じる割合が高くなること
・特に共有不足だと感じている情報の第1位は「他部署・他拠点の人に関する情報(65.9%)」であること
この結果から、「情報を配信した」ことと、「現場の社員に届いている」ことの間には少なからずギャップがあり、末端まで情報が伝わりきっていない現状が見えてきます。
現代の職場は、業務チャットやメールなど情報量が多すぎる環境にあります。そのため、「情報発信したら、社員に伝わっているはずだ」という前提のすれ違いが、現場の若手社員の「社内でキャリアを築く」という未来を具体的に描きづらくさせる1つの要因になっている可能性が考えられます。
出典:「情報の透明性」のためにWeb社内報がおすすめな5つの理由|TUNAG(ツナグ)
若手のモチベーション低下
その背景にある組織の「情報の見せ方」
これまで見てきた構造やデータが示しているのは、決して人事側の発信努力が不足しているということではありません。今ある情報発信のあり方を「受け手目線」で見直すタイミングを迎えているということです。
若手社員が次のキャリアステップを描くために必要としているのは、他部署がどのような仕事ができて、どんなスキルが身に付き、どんなキャリアを描けるのかをイメージ出来る「リアルな情報」です。
しかし、情報を配信しただけでは、情報過多な環境の中で埋もれてしまい、必ずしも若手社員の手元まで届くとは限りません。また、現場の管理職がその情報を上手く橋渡しできていなかったり、社員自身が能動的に情報を取りに行く文化が未熟だったりと、さまざまな要因が重なり合うことで他部署の姿が「見えにくい状態」になってしまっている傾向があります。
もし、社内でのキャリアステップの解像度が「転職サイト」に劣っているとしたら、その原因は若手の熱量不足だけではないかもしれません。「発信した情報が、社員のキャリア理解につながる形で届いていない」という、組織構造上の機会損失が潜んでいるのではないでしょうか。
このギャップを解消し、若手社員が自社での将来像を描ける「生きた情報」を届けることが、社内での新たな挑戦を促すための第一歩です。
数年後の自分をイメージできる、「生きた情報」を開示していく
原因が個人のやる気ではなく、情報の届き方に潜む「構造的な課題」であると見えてきた今、人事が講じるべき具体的なアプローチが見えてきます。
ここで避けたいのは、文字だけの部署紹介資料をイントラネットに再掲載したり、形だけの社内交流イベントを企画するといった、表面的な施策にとどまることです。若手が本当に求めているのは、単なる交流の場ではなく「自社で得られるリアルな成長機会」です。そこへの動線を作らないままでは、本質的な課題解決にはつながりません。
今見直す点は、条件や文字としての情報を一方的に伝えることではなく、若手が「この会社でもう一度、新しく成長できるかもしれない」と数年後の自分をポジティブに想像できるような、手触り感のある「生のキャリア情報」をオープンにしていくアプローチです。
若手の「やりたい仕事がない」は、個人の問題ではなく、組織の仕組みをアップデートする大切なサインなのかもしれません。社内の可能性をありのままに開示していく工夫が、若手の熱量を再燃させ、組織の未来を動かすきっかけになるはずです。