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自社で「人を動かす」ための実践的なヒントとして、ぜひご活用ください。

サステナビリティを掲げさまざまな取り組みを進める企業が増える一方で、「一部の担当者だけが推進している」「現場までなかなか浸透しない」「社会貢献と事業成長をどう両立させるか分からない」といった課題も少なくありません。
2026年8月3日(月)に開催したサステナビリティカンファレンスでは、「サステナビリティを人財・組織文化に根付かせるには何が必要なのか」をテーマに、トッテナム・ホットスパーの最高収益責任者(CRO)ライアン・ノリス氏による基調講演、コクヨ株式会社、株式会社ダイセル、株式会社アデランスの3社による取り組み紹介、そして4社によるパネルディスカッションを実施しました。
本レポートでは、基調講演と3社の実践事例、パネルディスカッションでの議論を通じて見えてきた、サステナビリティを「人」「組織」「経営」へとつなげていくためのポイントを紹介します。
【カンファレンス概要】
| 開催日 | 2026年8月3日(月) |
|---|---|
| プログラム |
オープニング トッテナム・ホットスパー 最高収益責任者(CRO) ライアン氏 講演 日本企業の取り組み 登壇企業によるパネルディスカッション QA |
| 登壇企業 |
トッテナム・ホットスパー 最高収益責任者(CRO) ライアン・ノリス 氏 コクヨ株式会社 CSV本部 サステナビリティ推進室 理事 井田 幸男 氏 株式会社ダイセル 執行役員 サステナブル経営推進室長 廣川 正彦 氏 株式会社アデランス マーケティング統括部長 グループCSR広報室長 新田 香子 氏 |
INDEX
ライアン氏による基調講演では、サステナビリティを一過性の取り組みに終わらせず、企業の持続的な成長につなげていくためには、「人がどう動くか」が重要であるという視点が提示されました。
サステナビリティという言葉や理念を掲げるだけでは、組織は変わりません。重要なのは、社員一人ひとりがその意味を理解し、自分の仕事とのつながりを見出し、自ら行動に移していくことです。トッテナム・ホットスパーでは、サステナビリティを「専門部署だけが担うもの」とするのではなく、取締役会の意思決定プロセスから現場のスタッフ、さらにはトップチームからアカデミーの選手に至るまで、全員が関わるカルチャーとして組織に浸透させています。組織の象徴である選手が主体的に関わることで、スタッフやファンにもその重要性が自然と波及していく仕組みが作られています。
また、ライアン氏は「サステナビリティはもはやコストセンターではなく、商業的な成長を支援する収益源であり、競合優位性になる」と語られていました。その言葉を裏付けるように、トッテナム・ホットスパーでは100%再生可能電力の使用や、スタジアムで提供する食品の80%を地元から調達するなど、ビジネスのあらゆる場面にサステナビリティが組み込まれています。新しい施策は、まずトレーニングセンターで小さくテスト(パイロット)し、成功したものをスタジアム全体にスケールアップするという、ビジネスにおけるプロセスが紹介されました。
さらに、ファンとのコミュニケーションにおいても、サステナビリティを押し付けるのではなく、ファンが試合を楽しむ体験を損なわないことを重視しています。ファンが意識せずとも、結果として環境負荷の低減につながる仕組みをつくるという考え方です。
環境への貢献とビジネスの成長を両立させ、関わる「人」すべてを自然に巻き込んでいく姿勢には、制度ではなく「人」を起点に組織を動かす、サステナブル経営の真髄が表れていました。
3社の取り組みは、対象とする社会課題もアプローチも異なります。一方で共通していたのは、サステナビリティを本業から切り離すのではなく、それぞれの企業が持つ強みや価値観と結びつけている点です。
ここからは、各社がどのように「自社らしいサステナビリティ」を形にしているのかを見ていきます。
文具や家具、空間提案を手がけるコクヨは、「ワクワクする未来のワークとライフを予告する」というパーパスのもと、社会価値と経済価値の同時実現を目指しています。
従来の受動的な目標設定を改め、障害のある人と研究開発者が共に商品をつくる「インクルーシブデザイン(ハウズデザイン)」を推進。握力の弱い人でも開けやすいペットボトルなど、使う人を選ばないユニバーサルな価値を持つ新商品を開発し、すでに新商品の35%がこのプロセスから誕生している実績が紹介されました。
また、そうした価値を生み出すための「人財づくり」にも注力しています。「自ら良質な問いを立てて、社会課題に挑戦していく人材(自立協同社会に貢献する人材)」を育てるため、部門を超えた社員が未来の課題に業務の20%を使って挑戦できるプロジェクトなどを実施。企業を挙げて、社員が主体的に動ける組織文化を醸成していることが語られました。
自動車部品やスマートフォンなどに使われる高機能プラスチックを製造するダイセルは、エネルギー多消費産業としてGHG(温室効果ガス)削減という大きな課題に向き合っています。
「エコロジーとエコノミーの両立」を掲げ、全社員向けのGXリテラシー教育や手挙げ制の「SDGsアンバサダー」を設置。このアンバサダーは上司の推薦ではなく自発的な応募で集まり、部署を越えた交流を生んでいます。
アンバサダーのアイデア(社内ビジネスコンテスト)から、同社の素材技術を活用した「海洋の藻場再生プロジェクト」が立ち上がるなど、本業の技術を持続可能な社会づくりに活かすと同時に、社員の挑戦を後押しする姿勢が共有されました。
髪の悩みに寄り添うアデランスは、全国の理美容師ネットワークやウィッグ製造技術といった自社の強みをそのまま社会課題の解決に活かしています。
病気やケガで髪を失った子どもたちへオーダーメイドウィッグを贈る「愛のチャリティ」をはじめ、病院内への移動式理美容室の導入、使用済みウィッグを回収して植樹につなげる「フォンテーヌ緑の森」活動など、お客様の悩み解決と環境保全、そして事業成長が一体となった事例が紹介されました。
これらの活動の多くは、現場の社員のアイデアから生まれています。同社ではCSR活動をまとめた冊子を全社員に配布し、自分たちの取り組みに誇りを持ってもらう工夫も行っており、「社員の笑顔がお客様の笑顔につながる」という価値観が根底にあることが語られました。
3社の事例を踏まえ、パネルディスカッションでは、
②一部署の取り組みを、どう全社の推進力につなげるか
③サステナビリティを、どう経営戦略に組み込むか
という3つのテーマについて議論しました。
最初のテーマは、サステナビリティ人財の育成・確保です。
ここで共通して語られたのは、サステナビリティ人財を特別な専門人材として捉えすぎないことでした。
コクヨの井田氏からは、まず企業として「どのようなサステナビリティを目指すのか」という“企業の色”を明確にすることの重要性が語られました。「やらねばならない」という受動的なものではなく、「クリエイティブでポジティブ」といった自社らしいトーンを定義することで、それに共鳴する人材が育ちやすくなります。
一方、ダイセルの廣川氏からは、外部から専門性を持つ人材を採用するだけでなく、社内公募によって「この領域で働きたい」という社員を受け入れる仕組みを実践していることが共有されました。
そしてトッテナム・ホットスパーのライアン氏からは、さらに踏み込んだ取り組みとして、サステナビリティへの貢献を社員の評価にも組み込む考え方が紹介されました。全部門の社員が、自分の仕事を通じてサステナビリティにどう貢献したかを評価する仕組みです。そうすることで、サステナビリティは専門部署だけの仕事ではなく、全社員が日常の仕事の中で考えるテーマになります。
次のテーマでは、一部署から始まった取り組みを、いかに全社へ広げていくかが議論されました。
ここで印象的だったのが、「社員の中にスイッチが入る瞬間をつくる」という考え方です。
コクヨの井田氏からは、体験や社内発信を通じて、小さな活動であっても社内報などで取り上げることで、社員自身が「自分の活動が認められた」と感じ、その小さな火が徐々に大きな動きへと広がっていくプロセスが紹介されました。アデランスの新田氏からも、社会貢献活動への参加を可視化し、認めることが社員のモチベーションにつながっていると語られていました。
また、トッテナム・ホットスパーのライアン氏からは、部門横断型のワーキンググループや、サステナビリティについて考える時間を設けることに加え、KPIや人事評価に組み込むことで、日常業務の中にサステナビリティを位置づけるという考え方が示されました。
全社化とは単に「全社員に周知する」ことではありません。社員が関わる理由をつくり、行動を認め、その行動が次の行動を生む仕組みをつくること。そこに、組織への浸透のヒントがありました。
最後のテーマは、今回の議論のゴールともいえる「経営戦略との融合」です。
ダイセルの廣川氏からは、GHG排出量削減などの取り組みを進める中で、一定の段階を超えるとコストアップが避けられなくなるという現実が語られました。
だからこそ重要になるのが、サステナビリティを「コスト」として捉えるだけでなく、事業そのものの競争力につなげる視点です。サステナビリティに関わる課題そのものが、今後は企業間の競争力になっていくという考え方が示されました。
アデランスの新田氏からも、サステナビリティへの取り組みが、顧客から選ばれる理由や、採用において「この会社で働きたい」と思ってもらう理由につながるという事例が紹介されました。
サステナビリティを「事業とは別に追加するもの」と考えるのではなく、顧客から選ばれる理由、社員から選ばれる理由、そして将来の競争力そのものとして捉える。
そこに、サステナビリティを経営戦略へつなげる視点があります。
今回の議論を通じて、企業ごとにアプローチは異なるものの、共通するキーワードが浮かび上がりました。それが「共感」です。
企業として目指す姿に共感する。
自分の仕事とのつながりに共感する。
社会にとっての意味に共感する。
そして、その共感を一人ひとりの行動へと変えていく。さらに、その行動を組織として認め、次の行動へとつなげていく。
サステナビリティを組織文化に根付かせるとは、制度や仕組みを整えるだけではありません。人が「自分も関わりたい」と思える理由をつくり、その思いを行動へ変えていくこと。
3社の事例とパネルディスカッションからは、そんな組織づくりのヒントが見えてきました。
ディスカッションの締めくくりに各社の口から共通して語られたのは、社会性と企業成長を両立させることの重要性でした。
サステナビリティを「社会のために企業が取り組むもの」とだけ捉えるのではなく、自社の事業や人、顧客、地域との関係の中にどう組み込むか。
その答えは企業によって異なります。だからこそ、他社の成功事例をそのまま導入するのではなく、自社らしいサステナビリティとは何かを問い直すことが重要です。
コクヨの井田氏からは、「社会性やコミュニティを起点に考えることで、自社の枠を超えた新たな気づきが生まれる」という総括がなされました。
また、ライアン氏からは、サステナビリティを将来の事業に耐えうる戦略として捉え、リスクへの対応力を高めるだけでなく、企業の価値や競争優位につなげていくことが重要とのメッセージが送られました。
サステナビリティを「やらなければならないもの」として追いかけるのではなく、自社らしい価値として事業の中に組み込み、社会と企業の未来をともにつくっていく。
今回のカンファレンスは、そのために必要なのは「人を動かすこと」であり、そこから「組織を動かし」、最終的に「経営を動かす」ことなのだという、多くの示唆が共有される場となりました。