なぜ、彼らは「管理職になりたくない」のか。
その裏に隠された「本音」と、自己効力感の解き放ち方

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【現状の違和感】条件を整えても届かない「私には無理です」の壁
現代のHR領域において、頭を悩ませる課題の一つが「次世代リーダーの不在」です。特に、現場で目覚ましい活躍を見せ、周囲からの信頼も厚い若手・中堅層に対して管理職への打診を行った際、返ってくるのは前向きな返答ではなく、「私には無理です」「今はまだ考えられません」という断りの言葉であるケースが増えています。
多くの人事担当者は、こうした反応に対し「責任を負いたくないのではないか」「上昇志向が失われたのではないか」という疑念を抱きがちです。あるいは「働き方改革」の文脈から、ワークライフバランスの維持が最大の障壁であると判断し、残業削減やリモートワークの推進、さらには役職手当の増額といった「条件面」の改善で解決を図ろうとします。
しかし、現実はどうでしょうか。
どれほど「働きやすさ」や「報酬」を整えても、彼らが首を縦に振ることはありません。なぜなら、そこには「意欲」や「環境」の問題では片付けられない、根深い「認識のズレ」が横たわっているからです。
「通用するビジョン」が描けない――その裏にある「自分を削らない」選択
彼らが管理職を断る理由は、決して向上心がないからではありません。本質的な問題は、本人の自己評価と、求められるリーダー像との間に「成功のイメージ」が持てないことにあります。
上記のグラフは、Humap(株式会社アスマーク)が2024年に実施した調査結果です。このデータから、従業員の本音が浮き彫りになっています。
・「管理職に向いていないと思うから(23.8%)」
・「責任が重くなるから(21.3%)」
・「仕事とプライベートの両立ができないから(11.6%)」
注目すべきは、単なる能力への不安以上に、責任や時間的制約といった「今の自分を維持するためのリソース」が削られることへの強い警戒感が働いている点です。
彼らにとって管理職への挑戦は、輝かしいキャリアアップではなく、「心身のゆとりを削ってまで担う、リターンの見えない役割」のように映っています。今のスキルの延長線上にリーダーとして活き活きと働く自分の姿が描けない以上、彼らが「自分を無理に追い込んでまで挑む理由」を見出せないのは、むしろ極めて冷静でシビアな現状認識の結果と言えるでしょう。
出典:Humap(株式会社アスマーク)|管理職になりたくない風潮とその理由~人事が対応できる取り組みとは
「身を粉にして働くリーダー像」が一歩踏み出す足を止めてしまう
ここで直視すべきは、社内でロールモデルとされる現職リーダーたちの姿です。
バリバリと活躍するリーダーたちは組織の宝ですが、慎重になっている次世代の目には、彼らは「自分には到底真似できないタフな人々」として映っています。
「あの人だから、あんなに身を粉にして立ち回り続けられるんだ」
「自分があれほどタフに振る舞い続けるのは、現実的に難しい」
リーダー像が「タフで献身的」であればあるほど、候補者は自身の「生活の維持やメンタルの余裕」を失うことを恐れます。彼らが慎重になるのは、単に自分を守りたいからだけではありません。「あんな風に自分を犠牲にできない自分が引き受けるのは、チームに対しても無責任だ」という、組織に対する強い誠実さがあるからです。
しかし、この「自分の能力を冷静に、あるいは厳しく疑い、リスクを察知できる慎重さ」こそが、周囲を置き去りにしない、現代のフラットな組織に求められるマネジメント資質そのものなのです。
消極的な中にも、リーダー候補は眠っている
では、どのようにして彼らの背中を押せばよいのでしょうか。必要なのは、これまでの「説得」ではなく、彼らの認識を書き換える「能力の再定義」です。
・「能力の翻訳」をロジカルに行う
「君ならできる」という抽象的な激励は、自信のない社員にとってはプレッシャーにしかなりません。人事がすべきは、彼らが今持っている具体的なスキル(例:高い調整力、チームを支える傾聴力、緻密なタスク管理能力)が、管理職という役割においてどのように機能し、成果に直結するのかを言語化し、図解することです。いわば、既存スキルの「翻訳」作業です。
・「100点スタート」の幻想を解体する
管理職は「完璧な人間が就くゴール」ではなく、「新しい役割を通じて自分をアップデートしていくプロセス」であることを明文化する必要があります。「最初から完璧であること」を誰も求めていないことを伝え、失敗や試行錯誤が許容される「心理的安全性の高い椅子」を用意することが不可欠です。
・役割の再定義:孤独な決断から、仕組みの構築へ
リーダーの役割を「一人で全てを背負い、完結させること」から、「周囲の力を借り、チームが動く仕組みを作ること」へと再定義します。これにより、「自分一人の能力」に固執していた候補者の視点を、「チームリソースの活用」へと転換させることができます。
消極的な中にも、リーダー候補は眠っている
リーダー候補者が「今の自分のままでも、やり方次第で持続可能な挑戦ができる」という確信を持てたとき、その人の「自己効力感」は初めて動き出します。
自己効力感が高まれば、これまで「自分には無理だ」と蓋をしていた潜在能力が解放されます。役割という新しいレンズを通すことで、視座が引き上がり、かつては想像もできなかったスピードで個人の成長が始まります。
改めて強調したいのは、彼らが抱く「慎重さ」や「迷い」は、決してリーダーとしての欠陥ではないということです。むしろ、組織の現状を冷徹に見つめ、過度な負担に警鐘を鳴らし、仲間に迷惑をかけまいとするその姿勢こそが、これからの共感型リーダーシップの土台となります。
これからは彼らの「自信のなさ」を「誠実さという名の才能」と捉え直してください。その視点を持つことができれば、組織のリーダー不足を解消する鍵は、すでに目の前の「消極的な候補者」の中に眠っていることに気づくはずです。彼らが気づいていない自身の可能性を言語化する「可能性の翻訳家」になること。それこそが、組織を真の成長軌道に乗せる道なのです。