学校×ジビエ×地域創生

コロナ禍明け、インバウンドが過去最高を更新し続ける昨今、日本人の海外旅行はコロナ前2019年比で6割にとどまっています。
しかしながら、教育旅行はレジャー旅行に比べ回復傾向となっており、その内容も多様化を続け、現地で何をするかという「目的」が非常に重要となっています。
そんな中、海外教育旅行を取り巻く環境は、新たな課題に直面しています。
円安や燃油サーチャージの高騰に加えて、旅行会社の人手不足やインバウンド需要の急増による宿泊施設・貸切バスの確保難といった問題が「トリプルパンチ」となり、費用高騰の大きな要因となっています。
こうした状況に対応するため、多くの学校で複数のコース(海外・国内)を用意したり、海外旅行の行程を見直したりする動きが見られます。
私たちHIS教育事業グループは、このような時代の変化に対応し、国内での学びを深め、社会課題の解決に貢献するという「目的」に着目した、新しい教育旅行の形を提案します。
それが、「学生×ジビエ×地方創生」をテーマにした実習プログラムです。
INDEX
ジビエを取り巻く現状:ジビエ普及に抱える三つの課題
昨今世間をにぎわしている熊出没のニュースはほんの一部に過ぎず、獣害は日本全国で深刻な課題となっています。
特に深刻なのが農作物被害であり、令和5年度の野生鳥獣による農作物の被害額は全国で年間164億円に達しています。
出典:農林水産省 「鳥獣被害の現状と対策」(令和7年11月)
被害防止を目的とする捕獲も進み、シカ及びイノシシの捕獲頭数は増加傾向にあります。
出典:農林水産省 「鳥獣被害の現状と対策」(令和7年11月)
しかし、捕獲された野生動物の多くは破棄され、ジビエとして活用されるのはわずか1割程度にとどまっています。
それには以下の複雑な理由があります。
①処理加工施設の課題
家畜と異なり、野生鳥獣は捕獲後、迅速に処理加工施設へ運搬する必要があります。
しかし、全国に約800施設ある処理加工施設においても、運搬距離・時間や人員不足が課題となっています。
②流通の課題
施設に持ち込まれても、食用に適さないと判断される野生鳥獣は少なくありません。
また、食用可と判断されても、シカはあばら周りの肉が少ないなど、家畜と比べて食肉として取れる部位が極端に少なく、安定的な流通体制の構築が難しい状況にあります。
③消費の課題
ジビエは2014年に厚生労働省により「野生鳥獣肉の衛生管理に関する指針」が制定されるまで、食肉として広く販売流通されていませんでした。
一般社団法人日本ジビエ振興協会を中心とした普及活動は進んでいますが、上記のような理由から、広く一般的にジビエを食する環境は未だ発展途上にあり、流通と需要の双方が一緒に上がっていく必要があります。
出典:農林水産省 「鳥獣被害の現状と対策」(令和7年11月)
こういった様々な現状に着目し、ジビエを「社会に貢献できる貴重な地域資源」と捉え、有効活用するプログラムを企画しました。
本プログラムは、獣害に悩む地方自治体と、その課題解決に貢献出来る専門知識を学ぶ学生を繋ぐものです。
学生の「学びの力」を活かし、自治体の課題を解決し、地域を活性化することを目指します。
具体的な展開例:調理を学ぶ学生の「学びと貢献」
三者連携が生む価値:プログラムの構成とメリット
プログラムは主に以下の2つのステップで構成されています。
①オンラインガイダンス
オンラインで自治体と連携し、獣害の現状や捕獲・処理方法について説明します。また、一般社団法人日本ジビエ振興協会にもご協力いただき、ジビエ振興の意義や、ジビエ普及が社会を持続・循環させていくために必要であるといった内容を提供します。
②調理実習・成果発表
自治体で適切に処理された「国産ジビエ認証」の安全なジビエ食材を学校へ届け、学生は厨房で調理実習を行います。学生が考案したレシピは、地域のレストランでの提供や土産品、ふるさと納税の返礼品として活用されます。
このプログラムは、参加する学生、学校、地域社会に大きなメリットをもたらします。
学生にとっては普段触れる機会の少ない食材を調理する経験となり、料理を通した社会貢献に気づき、将来のビジョン形成を促します 。学校にとっては、特色ある授業の実現や、学生の活動を地域・メディアに発信することで学校の特色をPRする機会となります 。自治体にとっては、捕獲した野生動物を観光商材として活用し、地域の観光PRや販路拡大を図ることができます。
命を学ぶ授業:料理人としての原点
2025年9月某日、私たちはとある学校の調理科の授業を見学させていただきました。
皮を剝ぎ、内臓を処理された状態のシカ一頭を、授業の中で解体し、調理・実食するものとなります。生徒たちの目は、実に真剣なものでした。
加工された状態のお肉しか知らない人にとって、目の前で解体されていくというのは驚きと畏敬の念がありました。授業の中で講師の方がおっしゃっていた言葉が非常に印象に残りました。
「私たち料理人は、解体といった工程を自分たちで体験することで、命をいただくということを真剣に受け止める必要がある」 生徒たちにとって非常に意義のある授業だったと感じました。また、その後の実食も、シンプルな味の焼き肉以外にも、パスタや唐揚げ、パテ、デザートまで、シカ肉の様々な料理を堪能し、食肉としての美味しさも認識することとなりました。
HISが目指す「社会課題解決型ビジネス」とCSVの向上
授業の見学を踏まえ、ご紹介した調理を学ぶ学生向けのプログラムは、全国の料理人を目指す学生が是非体験すべきであると確信しました。
また、地方自治体の課題である獣害対策には、林業や農業など多岐にわたる専門知識が必要です。今後は、調理以外にも、これらの課題解決に貢献できる専門分野を学ぶ学生に向けたプログラムも順次展開していきます。
HISは、旅行・飲食・教育・地域創生といった社内にある多角的な事業を横断的に連携させ、単なるレジャー観光に留まらない、社会課題解決型のビジネスを拡張する事例として本プログラムを展開し、企業の社会的価値(CSV:Creating Shared Value)の向上を目指します。
今後も私たちHIS教育事業グループは、生徒たちの学びの機会を創出し、社会のより良い未来に貢献できるよう、教育旅行の新しい形を提案し続けます。
株式会社エイチ・アイ・エス
法人営業本部 教育旅行事業グループ
榎本太陽