こんにちは。
海外渡航が制限されている今、海外にビジネスを展開したいと考えているものの、なかなか活路が見いだせず、「実際に何から始めるべきか分からない」「具体的なイメージが湧かない」「どの国に進出すべきか迷っている」など、さまざまな懸念を抱えている方もいらっしゃるのではないでしょうか。
そこで今回は、HIS ドイツ・ベルリン支店がオープンした日本食材のアンテナショップについて、皆さまにご紹介します。
ドイツの首都ベルリンは、人口365万人ほどの都市で、在留邦人は約4,000人で、ドイツで見ると3番目に多い都市です。
HISが、なぜ日本食材店をオープンしたのか。売れ行きは?現地の方々の反応は?など販路拡大の悩みがあるみなさまにはとても気になるところではないでしょうか。
そしてタイトルにある通り、食を通じて訪日旅行に貢献するという、旅行会社ならではのアンテナショップの取り組みは、どのように行われているのでしょうか。
店舗出店の経緯や活動をコラム編集部(※以下編集部)が、現地HIS駐在員にインタビューしました。コロナ禍で始めた事業を惜しみなくご紹介したいと思います!
HIS ドイツ法人 新規プロジェクトマネージャー 大峡貴志
2006年HIS入社 2010年にHISシンガポール3年間従事。その後日本へ帰国し、法人営業団体旅行部門インセンティブセクション営業所長を経て、2019年からフランクフルトへ。現在はベルリン支店にてHISドイツ初の物販ショップの立ち上げ、新規プロジェクトマネージャーとして従事。

△ HIS ドイツ法人 大峡
JETRO様に取り上げていただきました!
2021年10月7日に公開されました「世界は今ーJETRO Global Eye」(#1106)で、当社のベルリン支店の取り組みを取り上げていただきました。 テーマは「日本の出汁を世界の“DASHI”に」。コラムで紹介したライナーさんも出演しています!是非ご覧ください。 公開サイトはこちら
はじまりはコロナの影響
編集部:早速ですが、なぜ、旅行会社のHISがベルリンで日本食材アンテナショップを始めたのか?背景を教えてください。
HIS ドイツ法人 新規プロジェクトマネージャー大峡さん(※以下大峡):HISは、フランクフルト、デュッセルドルフ、ミュンヘンと3店舗展開をしていました。2019年8月に、訪日旅行プロモーションや販売を手掛ける目的で、ベルリンにドイツ4店舗目をオープンしました。ベルリンを選んだ理由としては、人口が多いのですが、日系旅行会社の進出がなかった為です。
ご存知の通り、2020年に入ってからコロナがどんどん流行し、ドイツはロックダウンとなり、人の往来に制限がかかりました。日本をはじめとする諸外国のみならず、どこにも行けなくなりました。訪日旅行もキャンセルとなり、どなたも来店しない状況になりました。
ただし、店舗はありますから、固定費は発生します。責任者として、どうすべきかを考える必要に迫られました。
そこで、HISらしさを活かして新しい取り組みをしよう、と考え、ベルリンの店舗を改装し、日本食材のフラッグショップをやることにしました。
ベルリンは、人口も、在留する日本人も多いですが、日本食材の専門店がありませんでした。 あるのは、中国食材や韓国食材の傍らに少しだけ日本食材を置いている、アジアショップと言われる店舗です。
そこで、HISが日本食のフラッグショップみたいなことをやれれば、おもしろいんじゃないかと思い、2020年11月にオープンしました。
日本食材と訪日旅行のシナジー、立案から6か月で店舗スタート
大峡:一般的な食材を売るだけではなく、旅行会社としてできることをしようと考えました。例えば、石川県の日本酒を購入したお客様が、石川県の日本酒おいしかったな、今度日本にいったときには石川県に旅行にいってみようと、訪日旅行まで意識した取り組みができるのではないか、そして日本食材販売と訪日旅行は、シナジーが生まれやすいのではないか、ここに挑戦してみようと考えました。
編集部:ただ単に、ものを売るだけではなく、消費したお客様が原産地などにいずれ訪れたいというところまで考えた、旅行会社ならではのアンテナショップなのですね。
大峡:はい、まさにそうです。
編集部:アンテナショップのアイデアは、どのように生まれたのですか?
大峡:ベルリン支店のスタッフとディスカッションする過程で生まれました。私と、日本からのお客様を受け入れるガイド業務をやっていた久保田さんと二人で、「ベルリンで何か新しいことをやろう」と話をしていた時に、久保田さんから「日本食材販売はどうですか。」とお話いただきました。彼女は観光ガイドだけではなく、食品見本市での通訳や調査業務をしています。前知識もあったため、開店するためのデータ集めなどにも長けていました。そこで準備することができて、オープンにいたりました。
編集部:準備期間はどのくらいでしたか?
大峡:アイデアを出してから、店舗の改装、食材のラインナップを決めるなど、諸々の準備をして、6か月でソフトオープンすることができました。当初は少ない食材ラインナップでしたが、現在は850を超える食材をご提供しています。
編集部:半年で!スピードが速いですね。現在、久保田さんは店頭で販売されているのですか。
大峡:はい、久保田さんともう1名、日本に詳しいドイツ人スタッフのライナーさんがいます。ライナーさんは、日本で生活したことがあり、日本食にも詳しいです。例えばですが、通常味噌と八丁味噌の違いがわかるスタッフです。その2名がメインで店頭で販売してくれています。

△ 向かって左:久保田さん 右:ライナーさん
外観にはお酒のアイコンなどもあり、一見すると旅行会社とはわからない

△ 店舗内の様子①
店舗すべてを使い、850商品を展開している
ドイツでの反応と商品ストーリーを伝える重要性
編集部:お客様の購買傾向、特徴についても教えてください。
大峡:ドイツの方は、高い金額でも納得すれば、ご購入されます。 安ければよいという感覚ではない、という特徴があります。例えば、2つの日本酒が並べられていて、値段の差を聞いてこられます。なぜ、こちらが高いか。私達が、値段が高い理由、品質の良さや作り手の想いなどを伝えると、ではこちらに(値段が高いほう)という風になります。商品のストーリーが伝わると、ドイツのお客様は納得して購入します。
私たちの店舗の強みは、ここにあります。久保田さんとライナーさんが、食材の違いと背景にあるストーリを話せること、さらに食材をどう食べたらおいしいか、どう調理したらおいしく食べられるか、を伝えることができます。
また、日本食はドイツでも人気です。そのため、日本食に詳しいドイツ人の方も少なくありません。一例をお話をすると、ドイツではラーメン屋さんは並ぶほど人気です。ただ、このコロナの影響で、お店も閉まっていました。どうしてもラーメンが食べたい!お家でラーメンを作ってみよう!というドイツの方が増え、「麺だけを買いたい、希望は生麺。スープは自分で作るから」というようなお客様も増えました。生麺の取り扱いがなく、とても困りました(笑)。その際は、乾麺での調理方法をお伝えし、おいしく食べていただくための、アドバイスをしました。
編集部:アンテナショップではなく、スーパーのようにご利用される方も増えてきたのですね。
大峡:はい、アンテナショップの枠組みを超え、デリカ・お惣菜なども販売していき、スーパーの要素も取り入れていきたいと考えています。
編集部:日本だとアンテナショップの考え方は根付いています。東京だと、銀座にいけば各都道府県のアンテナショップがたくさんありますが、ドイツではそのような考え方は、あったのでしょうか。
大峡:ドイツは各州の自立が強く、その土地のものはその土地にしかない、という風土です。ベルリンにいてフランクフルトのショップはありません。そのため、ものめずらしさもあったと思います。今年3月(2021年3月)には、ベルリンのローカル記事や、ラジオ出演依頼など、地元メディアから出演のお話もいただきました。
※参考 地元ベルリン シャルロッテンブルクの記事
編集部:注目されているのですね。それによって、地元ベルリンのお客様が増えたのではないでしょうか。
大峡:ありがたいことに、反応は上々です。オープン当初、ご来店の8割は日本人だったのですが、現在は逆転しており、7割、8割がドイツのお客様です。日に20組、多い時では30組を超えるお客様がご購入されます。
商品ラインナップと選択
編集部:現在、850の商品の取り扱いがあるということですが、どのように日本から輸入して取り揃えているのでしょうか。
大峡:我々が輸出・輸入を直接しているのではなく、ホールセラー(卸問屋)5、6社から我々で売れそうな商品を選択し、仕入れを行っています。
編集部:ホールセラー先を商品ごとで、わけることにより、それで850ほどの商品数になるのですね。商品ラインナップはどのように決定されるのですか?
大峡:始めはホールセラーのみなさんに、必ずそろえた方がいいものを聞きました。そして、今はここの比重が大きくなってきていますが、私と久保田さん、ライナーさんの3名それぞれが、陳列してみたいものを考えて、取り入れています。
編集部:商品ラインナップで苦労されたことはありますか?
大峡:どの商品がドイツの方に受け入れてもらえるかを、試行錯誤をしながら進めました。 中には、人気がなく1度きりで終わってしまった商品もあります。ラインナップ選択は非常に苦労しました。現在は、試行錯誤の結果、売れる食材がわかってきたので、安定しています。
編集部:お惣菜やお弁当も、販売しているとお聞きしました。
大峡:はい、デリカ・お惣菜に関しては、近くの日本食レストランと提携しています。 ランチの時間に合わせて、パンやおにぎり、からあげなどを、店頭に並べています。今では、デリカ目当ての常連のお客様もいらっしゃいます。店舗の売り上げ10%ほどを占めています。
編集部:すごく売れている印象ですね!
大峡:はい、本当に良かったです。デリカ購入はドイツ人のお客様が多いです。 日本食のデリカが、周辺にないという背景もあるかと思います。
実は、この取り組みの前には失敗がありました。ランチの日本食ということで、お弁当を店頭に並べていたのですが、ドイツの方にはお弁当が売れませんでした。お弁当の概念がない中なので、まずはお弁当は何かを説明しなくてはいけません。とても苦戦しました。
そこで、手ですぐ食べれるようなおにぎり、からあげと単品中心に切り替えたところ、食べやすさを理解いただけたので、これがヒットにつながりました。現在はコロッケパンなども作ってもらい、販売は好調です。
編集部:失敗もしながらその失敗を成功に変えているのですね。ここで聞きたいことがあります。日本から、食材を販売してほしいというご要望があれば実現可能ですか?どのような流れになりますか?
大峡:はい、とてもありがたいお話です。本格的な取り扱いもできますし、テストマーケティングでの利用も可能です。
まずは、商品がお店に陳列した際に違和感がないものかを判断させていただきます。良い商品でも、ドイツの方の趣向に合うかどうかなど、確認が必要です。次に、どのように送っていただくか、を確認していき、ロジスティクスの部分を確立していきます。そして、当店での販売、という流れとなります。 ご相談は、当社商社事業部が窓口となりますのでお気軽にご連絡いただければと思います。
編集部:日本食にこだわるお客様は、食器などにもこだわりがあると思います。食材だけではなく、食に関わる商品の取り扱いもありますか。
大峡:はい、取り扱っています。お茶碗、小皿、箸、そしてぐい呑みなどは、日本酒と一緒に並べてます。現在、日本酒は80種類以上、陳列していますが、おちょこやぐい呑みは、ディスプレイのインテリアとしても、日本を感じます。ショップの雰囲気を作るうえでは、重要な役割を果たしています。

△ 店舗内の様子②
約80種類のお酒

△ 店舗内の様子③
食材だけではなく、日本食器も販売
訪日旅行再開に向けて、今後の展開は?
編集部:ベルリンの次の店舗も思案中でしょうか。
大峡:ドイツでは、ミュンヘンとフランクフルトにも同様の店舗を構えようと計画しています。そしてイギリス・ロンドン。ロンドンに至っては、マーケットは大きいですが、競合も多いため、戦略を考えながらの出店になると考えています。そしてその先、欧州各国での展開を計画しています。
編集部:多店舗での展開の狙いはどこになりますか?
大峡:はい、いつか必ず再開する訪日旅行に、貢献していきたいと考えています。欧州全土を使い、プロモーションサービスを提供していく計画です。企業様だけではなく、日本の自治体の皆さまにも、是非フラッグショップを活用頂きたいです。私たちは、ただモノを売るだけのショップではありません。日本食材・商品を通じて、そこにあるストーリを消費してもらい、その土地を訪れてもらう仕掛けをしていく。旅行会社だからこそできる、フラッグショップです。
編集部:私達も日本からみなさんの活躍を期待しています。大峡さんありがとうございました。
まとめ
模索しながらも、現在では確立しつつあるドイツ・ベルリンの日本食材のフラッグショップ。今回は、旅行会社だからこその、日本食材を海外で販売する取り組みを取り上げさせていただきました。
本格的な販売だけではなく、テストマーケティングとしての利用を考えてみるのはいかがでしょうか。
そして、こちらに興味を持っていただいたみなさまと、悩みを解決しながらHISがお手伝いできれば、嬉しい限りです。
ベルリン支店のプロモーション活用
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HIS コラム編集部