若手の離職は「逃げ」ではない。
「市場価値を失う恐怖」と戦う若手の生存戦略

近年まで当たり前だった「会社に守ってもらう」終身雇用モデルは事実上終焉を迎えました。これに伴い、個人は会社への依存から脱却し、「自分の市場価値を上げる」ことを最優先するようになり、転職を前提にキャリアを考えることが一般的になってきています。
しかし、このような時代の変化にもかかわらず、若手の離職を目の当たりにするといまだに「最近の若手は、少し壁に当たるとすぐ辞める」「根性がない、あるいは逃げ癖がついているのでは?」という率直な戸惑いを抱えているのではないでしょうか。
では、若手は、本当に目の前の困難から逃げているのでしょうか?
彼らは決して楽をしたいわけではなく、むしろ、「この会社でしか生きられない人間になって、市場価値を失うことへの強烈な恐怖」と戦っているのかもしれません。 本コラムでは、離職を個人の問題(根性論)として切り捨てず、時代の変化に対応した「生存戦略」として捉え直すことで、若手の「恐怖心」を逆転させ、彼らを最も惹きつける「最強の引力」を生み出す新しい定着戦略をご紹介します。
データが示す「成長」への執着
3年以内に辞めたZ世代の入社理由
3年以内に辞めたZ世代の退職理由
若手の動向を裏付けるデータと、実際に現場から聞こえてくる「生の声」を照らし合わせると、彼らのリアルな葛藤が浮かび上がってきます。openworkの調査データによると、3年以内に辞めたZ世代の入社理由1位は「会社のブランド・成長性」です。
入社理由に関する口コミによると、ある若手社員は、入社理由を次のように語っています。
「ネームバリュー。自分が新卒でこの企業に入れたという事実が、転職市場において価値があると感じていた。」
「地方では誰もが知る大手で、研修制度や福利厚生がしっかりしており、社会人として正しく育ててもらえると期待していた。」
これだけを見れば、彼らが安定やステータスを求めているように思えるかもしれません。
しかし、注目すべきはその「退職理由」です。同調査において、退職理由の第1位は「キャリア・個人の成長」に関連するもので、全体の3割を超えています。
彼らが手に入れたはずの「ネームバリュー」や「大手としての安定」を捨ててまで、なぜ早期に離職するのか。そこには、彼らが当初抱いていた期待と、入社後に実感したキャリアのギャップと切実なスキルの枯渇への恐怖があります。実際に退職を決めた若手たちの声には、共通した「焦り」が滲んでいます。
「ここでは成長できないと思った。少なくとも最初の3年から5年は『下積み』として耐える必要があり、会社全体の『我慢するべき』という風潮にどうしても耐えられなかった。」
「このままでは、何も身につけられずに30代を迎えることになると感じた。」
「事務職でルーティンワークが多く、将来に不安を感じた。仕事や責任の押し付け合いに疲弊し、もっと普遍的なスキルアップができる職に就きたいと考えた。」
ここから見えることは、「成長」が意味するのは、単なる「能力を身に着ける」ことだけでなく、昇格、昇級といったキャリアアップのチャンスも含まれるということです。また、「ブランド企業に入れた」という事実は、彼らにとってキャリアのゴールではなく、あくまで「市場価値の証明」のスタートラインにすぎないということです。彼らが本当に求めているのは、企業の看板ではなく、その環境でどれだけ普遍的なスキルを磨けるかという「中身」なのです。
入社後に、その会社独自の「社内でしか通用しない業務」ばかりが求められたり、成長の実感を得られない「不透明な評価」に直面したりしたとき、若手は「自分の貴重な20代を浪費している」という焦燥感に襲われます。彼らにとって、キャリアの停滞は市場価値の低下に直結するため、自分に役職や経験がない状態で会社に残り続けることへの強い恐怖なのです。
出典:オープンワーク株式会社|3年以内に辞めたZ世代の入社&退職理由ランキング(vol. 130)
「社内限定人材」という呪縛
では、若手にとって「外の世界を知らない」ことは、なぜこれほどまでに恐怖なのでしょうか。
それは「外の世界を知らない」ことが、「選択肢を奪われている」、すなわち「今の会社にしがみつくしかない」という不自由な状態を意味するからです。
多くの企業は、若手を早く自社に馴染ませようと、社内独自のルールや慣習、独自の専門用語を教え込みます。しかし、この教育が内向きになり、若手に外部で通用する実績を作る機会を与えられていない体制になってしまうと、若手は危機感を抱きます。
他流試合を禁じ自社のルールや慣習に若手を染め上げようとする教育体制こそが、皮肉にも彼らの離職を決意させる「最後の一押し」になってしまうというパラドックスが発生しています。囲い込もうとすればするほど、市場価値を失うことを恐れた若手は、心理的な不自由さから逃れようと会社を離れてしまうのです。
若手が目の前の壁に当たって離職を選ぶのは、困難から逃げたいわけではありません。むしろ、その場所で立ち止まることで「他社で通用しない人間になること」から逃げている、と捉えるべきです。この若手が抱えている悩みは、「野心があるが故に感じること」であり、この「野心」をうまく企業で活かす仕組みが必要です。
「野心」を活かす社内変革
真の定着戦略は、彼らが抱える「野心」を、若手でも成長実感を持てる社内風土の構築によって活かすことにあります。若手を囲い込むことではなく、あえて「どこでもやっていける力」が身につく環境を支援することにあります。
具体的には、以下のような取り組みを通じて、若手の成長実感につなげることができます。
・社内副業や公募による能力発揮の場
社内副業制度や、公募制のプロジェクトなどを通じて、自分の能力が活躍できる場を提供します。これにより、若手社員は「自分で何かを成し遂げた」「自分が活躍している」という気持ちになり、成長を感じることができます。
・「外の空気」に触れる機会の提供
自社の文化や価値観しか知らないことは、視野を狭めるリスクになります。他社との交流研修、外部プロジェクトへの参画など、自社とは異なる文化、ルール、価値観に触れる機会を意図的に設けることで、「自社の強み」と「自分の現在地」を客観的に理解できるようになります。この客観的な理解を離職に繋げず定着につなげるためには、外部経験で得た視点を自社の強みとして持ち帰り、変革に活かすフィードバックの仕組みを設けることも有効です。
・既存能力を磨く機会の提供
グローバルな視点や、高度な専門性を磨くための機会を提供することで、今ある能力をさらに磨くことができます。既に持っているスキルを陳腐化させないための自己投資を企業がバックアップする姿勢は、若手の成長意欲を満たします。
このようなオープンな姿勢は、「会社に依存させられている」という感覚から、「この会社にいることが、自分の将来への一番の投資になる」という強固な信頼関係へと変化させます。自分の成長に投資してくれるという信頼は、会社に対する「心理的安全性」の創出につながるのです。
まとめ
若手の離職を、個人の気質や根性論として片付けてしまうのは簡単です。
しかし、それでは根本的な解決には至りません。
退職理由の3割超が「個人の成長」を求めているという事実は、裏を返せば、それだけ多くの若手が「今の仕事を通じて自分を高めたい」という強い意欲を持っている証拠でもあります。
企業に求められているのは、若手でも成長実感を持てる環境を作ることです。社内での実績を通じて確かな成長の基盤を築き、その上で外部の機会を自己成長と現在地の把握に役立てるというステップを支援し、そのための機会を惜しみなく提供すること。そのオープンな姿勢こそが、結果として優秀な若手を最も強く惹きつけ、定着させる「最強の引力」となるはずです。