「H.I.S. 旅と本と珈琲と」1st Anniversary トークイベント「珈琲を読む、本を飲む」No.5 幅允孝×大塚朝之×佐藤健寿 「写真家・佐藤健寿流、unknown placeとの出会い方」

トークイベント「珈琲を読む、本を飲む」No.5 幅允孝×大塚朝之×佐藤健寿
「写真家・佐藤健寿流、unknown placeとの出会い方」

「まだ見ぬ理想の旅と、出会える場。」として2015年10月にオープンしたH.I.S.のコンセプト店「H.I.S. 旅と本と珈琲とOmotesando」。オープンから1周年を迎える10月7日、毎回好評を博しているトークイベント「珈琲を読む、本を飲む」の第5回目が開催されました。

今回は、同店のブックディレクターを務める幅允孝さん(BACH)、同店でスペシャルティ・コーヒーを提供している「猿田彦珈琲」代表の大塚朝之さんのお二人に加え、世界各地の奇妙な場所を紹介する写真集『奇怪遺産』でおなじみのフォトグラファー・佐藤健寿さんがゲストに登場。世界各地を旅してきた佐藤さんの、独特な視点の秘密が明かされました。

イベントイメージ「珈琲を読む、本を飲む」No.5 幅允孝×大塚朝之×佐藤健寿 「写真家・佐藤健寿流、unknown placeとの出会い方」

幅允孝(以下、幅):以前、雑誌『TRANSIT』で佐藤さんのフォトエッセイをお見かけして、おしゃれな雑誌なのにすごく浮いてるページがあるなと思っていたんです(笑)。僕はこの「H.I.S. 旅と本と珈琲とOmotesando」の明るい店内で、なるべく違和感のあるイベントをやりたいと常々思っていたので、今日はお越しいただけて嬉しいです。

大塚朝之(以下、大塚):僕もテレビの「クレイジージャーニー」(TBS系列「テッペン!」枠内)で拝見していて、すごい方だと思っていました。

佐藤健寿(以下、佐藤):ありがとうございます。

幅:早速ですが、佐藤さんは武蔵野美術大学をご卒業されて、なぜ今のようなお仕事を?

佐藤:僕は武蔵美の映像学科で写真を専攻した後、アメリカに渡ってまた写真を勉強していたんです。その学校での課題の一環で、ネバダ州にある「A(エリア)51」というUFOで有名な場所や、西部劇の舞台のようなゴールドラッシュ時代に栄えたゴーストタウンなどを撮って回ってみたら面白かったんですよね。

幅:ヴィム・ヴェンダースが写真で残しているような虚ろな感じというか、アメリカという国が背負っているイメージとはかけ離れた風景への興味があったわけですか?

佐藤:というよりは、子どもの頃から不思議なものが好きだったと気づいたんです。アメリカって、みんな好きなことをやっているじゃないですか。そこで僕はジャーナリストの落合信彦さんが出された本を読んで、南米のヒトラーの逃亡先と言われる場所に行ったり、ヒマラヤに雪男を見に行ったりしてみました。不思議と、”写真と旅”という自分の好きなことをやっていたんですよね。

■自分も宇宙人ーーこの世ならざるものと、ひょうひょうと、普通に向き合うコツ。

幅:そうして撮られた『奇怪遺産』や『世界の廃墟』といったお仕事は、少し前ならオカルトの文脈で語られていたかもしれないと思うのですが、僕はやっぱり写真家だと感じます。すごくストレートな写真で、余白で読み取ってくださいというスタンスですよね。

本
『奇怪遺産』

佐藤:UFOとか雪男って、一般の人でも結構好きだったりするじゃないですか。でも、いかんせんテレビや本の中での見せ方って古典的になっている。もっと間口を広げた見せ方ができるんじゃないかというのは、一貫してきましたね。

幅:UFOや宇宙人も、佐藤さんの写真だとなぜかそこにいても普通のように思えるんです。ひょうひょうと普通に語るというか……。『TRANSIT』の佐藤さんの特別編集号に「試験に出るUFO史」という企画があるのですが、そのリード文がすごくいいんですよ。

ー君は自分が宇宙人だという自覚はあるだろうか。この惑星、この銀河系、この宇宙で暮らしている以上、君は立派な宇宙人なのである。ー『TRANSIT 佐藤健寿 特別編集号~美しき不思議な世界~』より
本
『TRANSIT 佐藤健寿 特別編集号~美しき不思議な世界~』

幅:この独特の公平感は、実はひょうひょうと妖怪を語った水木しげる先生に近いような感じがしています。

佐藤:強いて言えば、僕は自然体でどこまでできるかが勝負だと思っていて。たまにテレビ局とかから声がかかって「(UFOや宇宙人の存在を)肯定してもらえませんか」とお願いされることがあるのですが、僕は中立の立場なのでお断りしています。かといって僕はオカルトオタクを否定する気はなくて、単に普通の人だからなんですよね。

幅:その”普通の人”具合は『奇怪紀行』や、雑誌『怪』での旅のエッセイに現れていますよね。僕は、佐藤さんのその”並列感”が好きなんです。特に漫画家の諸星大二郎さんと漫画『マッドメン』の舞台になったパプアニューギニアを訪れたエッセイが大好きで。

本
『マッドメン』

幅:鮮烈な経験を「すごい」と強調するわけでなく、驚きをそのまま書いているのが正直だなと思いました。マッドメンは全身を白く塗り、泥のマスクをつけた人々ですが、実際にご覧になったときはどう思われましたか。

佐藤:すごいなとは思いましたけども。

幅:人生観が変わったとかは?

佐藤:ないですねえ。

幅:この、堂々と言える感じがいいんでしょうね(笑)。

■有象無象の中から、自分の目で探し出す面白さ。

この「コーヒーを読む、本を飲む」では、毎回猿田彦珈琲の大塚朝之さんが、テーマに合わせたオリジナルコーヒーをふるまいます。今回は、エチオピア産の「チェンべ」を使った一杯です。

大塚:エチオピアのコーヒー環境は面白くて、コーヒーの品種がごちゃまぜに植えてあって、人が実際に目で見て品種を探し出すしかないんです。でも土壌が良いので、すさまじいコーヒーができるんですよね。エチゾチックで楽しいコーヒーなので、今日は面白い淹れ方をしてみたいと思います。 昔働いていたコーヒー屋さんで、80歳くらいのおじいちゃんが、「昔、進駐軍が飲ませてくれたコーヒーが美味しくて忘れられない」と社長に相談していたんです。そこで社長が、煮出して作る「トルココーヒー」を作ってみたところ、まさにそれだった。今日はそんなことを思い出して、エチオピアの「チェンべ」という品種をトルココーヒー風に召し上がっていただこうと思います。 コーヒーの世界では、コーヒーの香りを、ストロベリーやオレンジといった「フレーバー」で表現しますが、チェンべはフレーバーの数をたくさん感じる品種です。まずは、豆をペーパードリップで淹れるくらいの中挽きにして、お湯を100mlくらい入れ、グツグツ煮出します。上澄みの泡を取り、スパイスや砂糖、ミルクを入れれば完成です。

佐藤:まさに”路上の味”という感じですよね。
完成したコーヒーは、ジャンケンで選ばれた来場者4名にもサーブ。さて、そのお味は?

幅:ミルクティーやチャイっぽい感じですね。豆というか、お茶っ葉のような。

佐藤:粉が浮遊していて荒々しい感じと、甘さのバランスが面白い。美味しいです。

大塚:誰でもご自宅で簡単にできますよ。佐藤さんはエチオピアでもよく飲まれましたか?

佐藤:うーん……。現地の路上のコーヒーはかなり甘ったるくて……。

幅:先ほどから”路上”というキーワードが出ていますが、佐藤さんは路上がお好き?

佐藤:いえ、もう10年くらいこうした仕事をやっているので、初々しいバックパッカーみたいに路上での体験に飢えていないんですよ。

一同:(笑い)

佐藤:先週はボスニア・ヘルツェゴビナに行っていて、今日は宮古島でから帰ってきて……。生活の中でたまたま成田に行って、海外に行く時はパスポートを通すというだけ。国境の感覚がなくなりますね。

■変な公園も宇宙ロケットも一緒に並べて。狭い世界から飛び出そう。

幅:さて、この『奇怪遺産』の表紙は、ベトナムの「スイティエン公園」というものすごくヘンテコなテーマパークの写真ですが、単に変だからいいというわけではないんですよね。

佐藤:はい、そこはあまりカテゴライズしたくないです。いわゆる日本の”珍スポット”に宇宙ロケットは入らないと思われますよね。でも、僕はそういう縛りや、”日本写真家はこうあるべき、こう撮るべき”みたいな部分を壊したいんです。

本
『奇怪遺産2』

幅:既視感みたいなものを壊したいという、あまのじゃく的な部分は昔からあったんですか。

佐藤:美大にいたからこそ思うのですが、友達の展覧会や映画を見ていても身内だけでやっている閉塞感を感じていて、そこに縛られるのが嫌だったんです。それなら「あいつは何をやってんだろう」と思われるくらいがいいなと。

幅:全面的に賛成ですね。最近、心療内科とか認知症の施設とか、ますます幅広い場所に本を置く仕事が増えていて。やっぱり本好きの中だけではレンジが狭くなる。本をほとんど忘れている人にどう本を伝えるか、自然とイチから考え直すので、思ってもみない仕事ができるんですよね。

大塚:僕もそうなりたいなと思います。今日の佐藤さんのお話は僕にとって、今後5年くらいのアドバイスのように聞こえていましたね。

トークショーは、来場者からの質問コーナーへ。ものを見る目を変えてくれる、佐藤さんならではの答えが飛び出しました。

Q. 写真を加工したり色を強調したりする写真家さんもいますが、佐藤さんもされるのでしょうか?

佐藤:補正をするときもありますが、僕はフィルムでの撮影経験から、自分の中での不自然なラインを超えないようにしていますね。ただ、デジタルしかやっていない人は特に、絶景の写真をギンギンの青や黄色にしてしまったりする。

幅:そして、それを見た人が実際に行くと残念に感じてしまうと。プラトンのイデア論と同じですよね。

佐藤:僕もイデア観はありますね。中国のレインボー山と言われている「七彩山」も、実際に見るとがっかりする人が多い。

幅:ただ、僕はそのがっかり感も旅では重要だと思っていて。思ったより小さかったとか、行きたかった美術館が休館日だったとか、それが逆に自分の言葉で旅を語れることになるのではと。

佐藤:みんながそれをできるようになれば、ひとつの成熟ですよね。実は、人工衛星から地球の各地を撮影した写真集『SATELLITE-サテライト-』は、それがひとつのテーマでもあります。例えば、いまだにエジプトのピラミッドを見に行った人は、はるばるここまで来たんだと言いたくて、さも砂漠の中にぽつんとあるように撮るんですが、実際は街に挟まれた状態で存在しているんですよね。

Q. 私は、写真集『SATELLITE-サテライト-』”だけ”がすごく好きなのですが、一方で佐藤さんは、きっと変な公園やおじさんの顔のような、日常生活にあるものがお好きなのだと感じます。どうしてそこに惹かれるのですか?

佐藤:『SATELLITE-サテライト-』で撮影している場所って、多分日常生活で行ったら別に面白くないところなんですよ。それが、人工衛星から見ると奇妙に思える。

本
『SATELLITE-サテライト-』

例えばベトナムのスイティエン公園も、現地では「としまえん」みたいなもの。我々はとしまえんをなんとも思わないけど、外国の人からみると面白い。これは、視点がずれることによって見えてくる面白さですよね。何でも、ある人にとっては面白い、ある人にとってはつまらないと考えると、実は奇妙なものってこの世にはないんじゃないかと思います。

幅:佐藤さんは、それを分けないということですね。

佐藤:すべてを”並列”にしたかったんです。珍スポットとしてA51を入れたり、チェルノブイリを入れたり。そして、平然と並列に並べられるのは、本ならではだと思います。インターネットは、amazonのリコメンドみたいに関連情報でたどっていく仕組みが発達していますが、本や雑誌は、ページをめくったときに全く無関係の情報が飛び込んでくるという面白さがある。そういう衝突が読む人の中に起きれば楽しいなと思っています。

少し視点をずらして見てみれば、ふつうの景色も”unknown place”になるーー佐藤さんの作品には、旅をもっと楽しむヒントが隠されていそうです。本をめくるように旅をして、まだ見ぬ何かとの出会いに心を躍らせてみては?

<出演者プロフィール>
佐藤 健寿(さとう けんじ)
・佐藤 健寿(さとう けんじ)
武蔵野美術大学卒。フォトグラファー。世界各地の“奇妙なもの”を対象に、博物学的・美学的視点から撮影・執筆。写真集『奇界遺産』『奇界遺産2』(エクスナレッジ)は異例のベストセラーに。著書に『世界の廃墟』(飛鳥新社)、『空飛ぶ円盤が墜落した町へ』『ヒマラヤに雪男を探す』『諸星大二郎 マッドメンの世界』(河出書房新社)など。近刊は米デジタルグローブ社と共同制作した、日本初の人工衛星写真集『SATELLITE』(朝日新聞出版社)、『奇界紀行』(角川学芸出版)、『TRANSIT 佐藤健寿特別編集号~美しき世界の不思議~』(講談社)など。NHKラジオ第1「ラジオアドベンチャー奇界遺産」、テレビ朝日「タモリ倶楽部」、TBS系「クレイジージャーニー」、NHK「ニッポンのジレンマ」ほかテレビ・ラジオ・雑誌への出演歴多数。トヨタ自動車「Sense of Wonder」キャンペーンの監修など幅広く活動。
幅 允孝(はば よしたか)
■幅 允孝(はば よしたか)
1976年愛知県津島市生まれ。有限会社BACH(バッハ)代表。ブックディレクター。未知なる本を手にしてもらう機会をつくるため、本屋と異業種を結びつけたり、病院や企業ライブラリーの制作をしている。代表的な場所として、国立新美術館『SOUVENIR FROM TOKYO』や『Brooklyn Parlor』、伊勢丹新宿店『ビューティアポセカリー』、『CIBONE』、『la kagu』など。その活動範囲は本の居場所と共に多岐にわたり、編集、執筆も手掛けている。著書に『本なんて読まなくたっていいのだけれど、』、『幅書店の88冊』、『つかう本』。『本の声を聴け ブックディレクター幅允孝の仕事』(著・高瀬毅/文藝春秋)も刊行中。愛知県立芸術大学非常勤講師。 BACH
大塚 朝之(おおつか ともゆき)
■大塚 朝之(おおつか ともゆき)
1981 年生まれ。仙川で生まれ育つ。15 歳から25 歳まで俳優業を志し役者を引退後、コーヒー豆販売店に勤務。『JAVA』のロバート・トーレセンがCOE 豆(カップ オブ エクセレンス)のコーヒーを紙コップで出していることを知りスペシャルティコーヒーのカフェを開くことを決意。2007 年スペシャルティコーヒー協会(SCAJ)認定珈琲マイスターを取得。2011 年東京・恵比寿に猿田彦珈琲を開店。2014 年 大手飲料メーカでの商品監修2015 年自身の地元・調布に2 号店となる「猿田彦珈琲アトリエ仙川」をオープン。『たった一杯で幸せになるコーヒー屋』をコンセプトに、最高のホスピタリティを目指し「日本発の珈琲ブランド」としてサードウェーブを超えたフォースウェーブを目指す。

「珈琲を読む、本を飲む」とは?
ブックディレクター幅允孝氏と猿田彦珈琲代表の大塚朝之氏によるトークイベント。毎回異なるゲストをお招きし、様々なテーマで語り合います。 大塚氏が厳選したスペシャルティコーヒーを味わいながら、 旅と本と珈琲好きにはたまらない贅沢なひとときをお過ごしいただけます。

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〒150-0001
東京都渋谷区神宮前4-3-3 バルビゾン7番館

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TEL: 03-5775-2471
FAX: 03-5775-2472
営業時間: 11:00~19:00(毎日)
※猿田彦珈琲(1F)は平日のみ08:00~営業しています。
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